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海外駐在員レポ―ト:コロナ最大の感染国・2020年米国のテレワーク事情

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海外駐在員レポ―ト:コロナ最大の感染国・2020年米国のテレワーク事情

海外駐在員レポ―ト:コロナ最大の感染国・2020年米国のテレワーク事情

2020.09.25

イー・ビー・ソリューションズ株式会社 コンサルティング部
マネージング・コンサルタント  三上 宜孝


desk

オフィスコストの削減、通勤負担の軽減、人口の一極集中の緩和など、さまざまなメリットがうたわれながらも、日本ではなかなか定着してこなかったテレワークですが、コロナ禍で状況は一変。

業種によって違いはあれど、各企業で導入が進められている日本。

2020年コロナ禍に見舞われた、米国の事情はどうなっているのでしょうか?

本コラムでは、現地に駐在して米国企業を支援している筆者が見た、米国流テレワーク事情をご紹介したいと思います。

(写真:筆者 米国・ヒューストン自宅机)


目次

  1. 米国のテレワーク推進状況
  2. 米国で利用されているコラボレーション・ツール(Web会議システム)
  3. 米国でのテレワーク事例
    1. テレワークでの従業員同士のコミュニケーションは?
    2. テレワークでの従業員の勤怠管理・評価はどうしている?
    3. テレワークでの決済書類に、印鑑やサインは?
    4. テレワークでの顧客・仕入先への対応は?
    5. オンサイト(オフィス、客先)に行く場合は?
    6. 直接作業員と間接作業員の間に、不公平感は?
    7. テレワークでの仕事とプライベートの線引きは?
  4. 最後に

1.米国のテレワーク推進状況

もともと国土が広く、人も働き方もさまざまな米国では、コロナ前からテレワークの導入はかなり進んでいました。

日本で物議をかもしたホワイトカラーエグゼンプション(*white collar exemption)が広く取り入れられており、自分のジョブディスクリプション(職務定義書)にある仕事と、その責任範囲をこなして結果を出していれば、労働時間そのものは問われないワークスタイルも、テレワークの推進を後押ししていました。(*ホワイトカラー労働者の一部に対して、労働法上の規制(労働時間等)を緩和・適用免除すること)

データを見てみると、コロナ前の2018年度の総務省レポートでは、100人以上の規模の企業を対象にした調査で、日本が19.1%であるのに対し、米国はなんと85%というテレワーク導入率でした。

まさにテレワーク先進国の米国ですが、一方で、社員間のコミュニケーションや信頼関係づくりが難しくなるとして、グーグルやIBM等、テレワークの縮小や廃止を選択する企業も、出始めています。

始めたばかりの日本と異なり、既に導入が一巡し、自企業にあったテレワークのあり方を考えるフェーズに入っているのです。

ただいずれにせよ、コロナ禍では、こうした一企業のテレワーク導入方針に関係なく、国全体でテレワークを多分に活用しつつ、経済を回していく必要があり、各州・郡・学区でどのようにサービスを再開、継続させていくかのガイドラインを作成する等、各々運用に入っています。

中央集権型の日本ではなかなか決まらない新しいガイドラインですが、地方分権型の米国では、地域にもよりますが、基本的にこうした対応はとても速いです。

例) テキサス州オースティン学区のガイドライン

2.米国で利用されているコラボレーション・ツール(Web会議システム)

ではITの視点にうつって、米国でのテレワークを支えるコラボレーション・ツールを見てみましょう。

まず、テレワーク導入にあたり、Web会議のできるコラボレーション・ツールの活用は必須要素です、またその品質や機能がテレワークの生産性に直結しています。

このため、テレワーク先進の米国では、大手から中堅企業まで様々な企業からさまざまなコラボレーション・ツールがリリースされています。

テレワークでメインに利用される機能に着目し、筆者感想を交えながら、日本語版もリリースされている代表的なツールをご紹介します。(2020年8月時点最新)

コラボレーション・ツール(Web会議システム)比較表 へのリンク

3.米国でのテレワーク事例

次に、実務オペレーションですが、日本でのテレワーク導入時によく議題にあがる項目について、筆者のクライアント企業(日系製造業)では、実際どのような運用しているかをご紹介します。

3.1 テレワークでの従業員同士のコミュニケーションは?

従業員のコミュニケーションについては、部署毎に定期的なオンラインミーティング(ステータス報告、課題確認など)を実施しているほか、各マネージャーの裁量でさまざまなスタイルのショート・コミュニケーション(オンラインランチ、ティータイム、ゲームなど)の時間が頻繁に取られています。

元々コミュニケーション好きな米国人ならではのアレンジが多く、在宅ワーク下でも仲間の顔を全く見ない日というのはなかなかありません。

全員テレワークという状況下で、普段よりコミュニケーションに対する意識が高まっており、オフィスにいる時よりもむしろ会話が増えています。

3.2 テレワークでの従業員の勤怠管理・評価はどうしている?

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元々、オフィスワーカーはホワイトカラーエグゼンプションがおおく適用されており、労働時間より個々の労働契約書に記されている役割をこなすことが重視されているため、労働時間の厳格な管理は行われておらず、個人の裁量に任されています。日本のように、PCのOn/Offのログを取るようなこともありません。

但し、コミュニケーションの希薄化によるコンプライアンス違反が起こらないように、課ごとに週単位で個々の成果・パフォーマンスをレビューし、次週の計画を立てるPDCAサイクルを回しています。

在宅ワークにあたり、仕事とプライベートの線引きが難しくなっている状況で、たとえば9:00から17:00まで自宅でプライベートを外して労働をしているかどうかをモニターするのは、管理工数が増えるわりには生産性にメリットがなく、合理的ではないと判断されているようです。

一方で、時給制が適用されている、パートタイムワーカーの方々向けには、モバイルタイムカードシステムで労働時間のリモート管理がされています。自身で、ワークイン、ワークアウト時間を入力し、日単位、週単位でマネージャーが承認する方式となっています。

評価については、元々成果ベースであったのが、在宅ワークで必然的にパフォーマンスレビュー頻度があがったことにより、むしろオフィスワーク時よりも公正な評価がなされるようになりました。

(写真:筆者 アパート共有部にて)

3.3 テレワークでの決済書類に、印鑑やサインは?

決済・契約書関連書類は、99%電子署名で運用されるようになりました。日本のように、紙に印鑑を押さなければならないといった文化は無いので、コロナ前から電子署名は多く適用されてはいたものの、コロナ禍で一気に加速した形です。

社内承認、決裁書類、ワークフローは全て電子化され、一部、紙への実サインで運用していた仕入先や顧客へは、電子署名での契約に切り替えてもらうように依頼し、実紙の運用はほとんど無くなりました。

一部ITリテラシーの低いユーザーへのフォローアップが必要でしたが、ある意味コロナという大義名分が後押しする形で、反発を抑えられたと思います。

3.4 テレワークでの顧客・仕入先への対応は?

原則として、顧客や仕入れ先との対面での会議は禁止され、全てオンラインで対応しています。

顧客から、工場ラインの見学、仕掛品、ないし最終完成品のテスト等で工場訪問依頼はあるものの、ライブカメラを利用してのオンラインテストを積極的に取り入れて、感染リスクを減らすようにしています。

当初、オンラインでのテスト実施に難色を示す方もいましたが、ライブでの画像・通信品質もよく、オンサイトへ出向く必要が無いことを訴え、いわゆる「食わず嫌い」を徐々にとりのぞくことで、今では通常のプロセスとなりました。コロナ後も、顧客の要望に応じてオンラインテストは継続する予定です。

また、営業活動にもライブカメラを活用して、商品説明・プロモーションを実施しています。取引先の会社も、対面の会議は禁止している場合が多いため、商談も全てオンラインでの対応となっています。

3.5 オンサイト(オフィス、客先)に行く場合は?

製品の物理的故障に対するフィールドサービスや、工場でのライン作業等、客先または自社オンサイトで実施する作業はどうしても発生します。

こうした必須で行わねばならない現場作業でのクラスター発生を防ぐ為に、自社オフィスや工場で行っている対策は、主に以下になります。

  1. オフィス出社前、入室前の検温と消毒
  2. オフィス内でのマスク着用(作業用の通気性のよいマスクを従業員に配布)
  3. 部門毎にオフィス内での導線を固定(出入り口、通行する廊下、使用するトイレを部門毎で固定し、部門間接触の機会を極小化する)
  4. オフィス・工場の共有機材は使用者変更前に消毒実施
  5. 入室、退室者の管理(事前申請と実入退室管理)
  6. オフィス内ワークスペースのソーシャルディスタンシング(物理的距離やアクリル板の設置)

基本的に、外部の方が出入りする際にも同じポリシーを適用しています。こちらから出向く際は、先方のポリシーを事前に確認させて頂き、それに合わせて対応しています。

3.6 直接作業員と間接作業員の間に、不公平感は?

数として決して多くはないのですが、工場や倉庫の現場にいる直接作業員の中には、テレワークできず、感染リスクが高くなることへの不満から、間接作業員との間の不公平感を訴える方もいます。

工場で働く直接作業員には、勤続年数が長く、いわゆる職人クラスの技術を持ち、製造ラインの中核を支えながら、若手の育成にも力を入れて取り組んでいるような方が何人もいらっしゃいます。

こうしたコアな人材の離職に繋がらないように、3.5で書いた、オフィスでの感染対策に追加して、期限付きで対象者にRisk Allowance (日本の危険手当に相当)などを検討しています。

これについては、逆に間接作業員を抱える部門から異論も出る可能性もあります。間接作業員とはいえ、オフィスに来なければならないケースもあるからです。

どんな施策であれ、全員の不公平感を完全に払拭できることはない、といえます。

また、今後発行する職務契約書には、仕事をするロケーションに対する記載と処遇を明文化する検討も始まっていると聞いています。

テレワークを導入する上で、従業員の間の不公平感の払拭は、永遠のテーマの一つといっても良いかもしれません。

対応には、これといった正解が無く、企業風土、ビジネス業態、働く従業員の個性等、様々な属性を鑑みながら、その企業と従業員に合った制度設計を行っていく必要があります。

筆者の周りでも、まだ不平不満の声が聞こえてくることはあります。初期制度には不備があることを前提に、不公平感と向き合いながら、改善を続けていくことが重要であると感じました。

3.7 テレワークでの仕事とプライベートの線引きは?

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米国に延べ10年近くいる筆者の私見ではありますが、日本人に比べて米国人はプライベートや家庭を重視する傾向があります。

決して仕事を軽視するという意味ではないのですが、仕事はプライベートを充実させる手段の一つであると考える方が多いように思います。

その為なのか、明確に仕事とプライベートの線引きをしている方、というのは私の目に見える範囲にはいません。

Web会議に子供が映ったり、ランチを取りながら会議に出たり、車で移動中の車内から会議に出たり、買物中に会議に出たりと人によって様々ですが、注視したい点はそれをとがめられることがほぼ無いということです。特に子供に関することは、さらに寛容になっていると感じます。

もちろん会議を邪魔せず、会議内での自身の役割を果たすということが大前提にあるのですが、逆に言えば、それだけできていれば良いという考え方です。

最近、日本での在宅ワーク中、Web会議に子供が映ったことを同僚にとがめられたという記事が物議をかもしていましたが、こうした記事を読むと、日本ではワークスタイル多様化の必要性がうたわれつつも、それに必要な寛容性はまだまだ熟成しきれていないと感じます。

メンバー間上下左右のコミュニケーションを欠かさなければ、コンプライアンスは必然的に守られていきますので、保守的なルールの策定より、公私融合しつつ生産性をキープする職場環境の醸成に、力を入れることが肝要であると思います。

(写真:自宅での作業の様子)

4. 最後に

いかがでしたでしょうか?

日本では、コロナ禍で政府が出社7割減を目標に掲げつつも、テレワーク普及率は7都府県で38.8%、東京都に限れば49.1%(緊急事態宣言中)という水準でまだまだ導入に消極的な企業が多い印象です。

導入しない企業で一番多くの理由は「テレワークでできる業務ではない」だそうなのですが、大きな工場を持つ筆者の米国クライアント企業では、工場ラインと倉庫の受払で、物理的にその場にいなければ作業できない方を除いた、間接業務の9割の従業員の方はテレワークで対応できています。

従業員の労働時間管理が・・、書類への印鑑が・・、取引先への対応が・・、ツールの導入・教育が・・等々導入の障壁となるこれまでの業務は多々あるかと思いますが、コロナのようなパンデミック下での事業継続のみならず、災害時の事業継続、オフィスや通勤コストの削減、地方や海外の人材確保等、テレワークが経営にもたらすメリットは決して少なくはありません。

また、今後日本では、人口減少に伴い、労働力の安定確保のためにワークスタイルの多様化がさらに必須になります。コロナは決して喜ばしい事象ではありませんが、今までのやり方を変えて、業務に変革をもたらすという意味では、これほどの機会はそうはありません。

日本で、ある業務でテレワークができない!という壁にぶつかった時、社会制度・ルール・意識の違いありますが、米国の一歩先を行った例を参考に、壁をつきぬけるような策を思案するのはいかがでしょうか?



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