イー・ビー・ソリューションズ株式会社

MENU

対談・ DXプロジェクトを成功に導く、IE(industrial engineering)の視点とは?

  1. TOP
  2. コラム
  3. 対談・ DXプロジェクトを成功に導く、IE(industrial engineering)の視点とは?

DXプロジェクトを成功に導く、IE(industrial engineering)の視点とは?

対談・ DXプロジェクトを成功に導く、IE(industrial engineering)の視点とは?


2021.8.25

株式会社 東芝 生産推進部 シニアマネージャ 高田 淳 氏
株式会社 東芝 生産推進部 エキスパート 大井川 正 氏
イー・ビー・ソリューションズ株式会社 マネージング・コンサルタント  中嶋 宣行 氏


東芝対談

(左から、大井川氏、中嶋、高田氏)

対談の背景

世の中ではデジタルトランスフォーメーション(DX)という名の下、あらゆる仕組みのデジタル化が進められています。このような潮流の中で技術的にはサイバー側が着目されがちですが、IEを経験し、またコンサルタントとしてDXプロジェクトを担当している中嶋は、フィジカルシステム(現実世界)を正確に表現しなければ、デジタルシステムに再現することが出来ず、結果としてDXによる改善に結び付けることが難しいと考えています。



IEとは・・・工程や作業内容を科学的に分析して、生産管理を最適化すること。Industrial Engineeringの略で、日本語では生産工学と訳される。生産管理における無駄な作業や工程をなくすのが目的で、以前から日本の生産現場やメーカでは、IEの専門家を社内育成し、工場の現場改善活動をおこなってきた。

DXとは・・・デジタル技術などを用いて、製品・サービス・ビジネスモデルを変革すること(ビジネスのデジタル化)。また本文中で登場するITとは、デジタル技術を用いて、製品・サービスの提供を効率化すること(業務手段のデジタル化)



本対談では、IE手法や、技能教育活動を、東芝グループを対象に教育推進する両名と、グループ外でDXに取り組む中嶋が対談し、DXとIEとの関連性から、プロジェクト内にDXの理解者を育て、DXを成功させるポイントを明らかにします。



対談(以下、敬称略)


東芝対談

●DXとIEの関連性について

中嶋: 最近多い、世の中でDXやCPSを紹介する記事で、デジタルツールを導入すれば現状が改善されるように話されることが多いですが、実際のDXプロジェクトに入っていると、デジタルツールを使って業務を改善するということの難しさが見えてきて、そのギャップを感じています。

(CPSとは・・・Cyber-Physical System実世界(フィジカル)におけるデータを収集し、サイバー世界でデジタル技術などを用いて分析したり、活用しやすい情報や知識とし、それをフィジカル側にフィードバックすることで、付加価値を創造する仕組み)

私は以前、お二人とIEや技能者教育に携わったことがありました。IEが対象とする生産現場改革は、DXと真逆でフィジカルなことのように思えますが、何をゴールとするか決めることや、仕事のやり方など、DXプロジェクトにおいてもIEの視点が必要ではないか、と考えています。

高田:IEの考え方として、生産現場の業務プロセスの中で、付加価値を出せる時間を増やす、というものがあります。また逆に、付加価値の出ないところを減らす、とも考えます。DXでも、システム化する業務プロセスの中で、付加価値が生まれるところと生まれないところを見極めた上でツールを導入し、業務効率を上げていくという意味では、考え方は変わらないのではないでしょうか?

中嶋:おっしゃる通りですが、デジタルツールは目に見えない場合が多いので付加価値がわかりづらいのだと思います。DXの提唱者の言葉で、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面で、よりよい方向へ変化させる」とあって、人を幸福にすることがDXの目的のはずですが、デジタルツールを入れることが目的になってしまうことが多いです。

大井川:IEがあつかう生産現場改革でも同じく注意すべきポイントです。「目的」と「手段」とが逆になってしまうことがよくあります。


東芝対談


●いかにDX抵抗者を、理解者にしていくか?IE的考察

中嶋:ある承認プロセスの電子化で、オンラインで帳票に内容をいれていくものの、最終的に印刷して、人が確認して押印するプロセスが残る場合がありました。さらにその先のプロセスで、印刷したモノの確認結果が必要だったため仕方がない面もありますが、もどかしい思いをしたことがあります。

大井川:それはハンコが目的でなく、承認行為が目的ですよね。現場の改善でも、今までのやり方を変えるということに対して、どうやって理解してもらうかが一番難しく悩ましい部分です。

中嶋:その通りです。本来のDXを進めて業務を変えるためには、働く人の意識を変える必要があり、また過去を否定しなければいけないのですが、それが難しいと感じています。フィジカルシステムで行っていることは「ハンコを押す」ことではなく、「承認する」ことだと捉えないといけないのです。そしてハンコに代わる方法があることを理解してもらう必要があります。

高田:関連することで、IE ではECRSの原則というものがあります。作業や業務プロセスの改善をするときに、①無くせないか(Eliminate)②結合できないか(Combine)③順番を変えられないか(Rearrange)④単純化できないか(Simplify)という4つの観点から見直す手法です。その際、各業務においてはインプット(部材や情報)からアウトプットを出していくわけですが、この変換にどんな付加価値があるのかを理解し、改善する余地が無いか働く人に説得したり考えてもらったりしていきますね。IE人財は、従来から生産現場でそうした取り組みをしてきました。

大井川:IEでもDXでも何かを変えるということに対しては同じで、相手の立場になった提案の仕方、人間関係の作り方で、受け入れられ方が大きく変わってくると思います。

高田:以前、工場には現場改善部隊がいて、彼らは新しい手法や事例を学び現場に持ってきましたが、改善内容については現場が自分で考える、というのが王道でした。ただ現場に、困ったことはないか、無駄はないか、と言っても何もでてこないケースもあります。日頃実施している作業や業務は、慣れてしまっている分、改善できるかもしれないと思い至らない人も多いですね。特に、DXが扱うような間接業務は、作業内容が外から見えないので、無駄が見えにくいのが実情です。IEの視点とITを使った計測ツールを使って、無駄をあぶりだすことが必要になります。無駄が見えてくれば、改善の必要性を理解してもらえるようになるはずです。

東芝対談


●DX現場で求められる人財を育成するには

中嶋:DXで扱われるシステムついても、あるインプットに対してアウトプットがある「ボックス」のようなシンプルなイメージを持って欲しいです。また、ボックスの中や、ボックス間の情報のやり取りにルールや制約がある、同じインプットを入れても、アウトプットにバラツキがあるといった、自然科学的挙動があるといったことを、DXに携わる人財に知っておいて欲しいです。

若い部下がDXプロジェクトの現場に入って、新しい仕組みに向き合ったときに、複雑なものとしてとらえるのでなく、シンプルにとらえてほしい。

例えばIoTで収集した計測データなどでも、一定の運転をしていたにもかかわらず、ばらつきが出ることがあります。また、思った結果が得られない時があります。複雑にとらえていると悩んでしまうのですが、システムを単純化して理解し、ばらつきや異なる結果を発生させるプロセスをとらえる思考が必要です。これはIEでいう工程分析と同じだと思います。

大井川:IEでは机上の理論も大切ですが、やはり現地現物現実、3現主義を大切にしています。実際の教育も工場に行って、実践し体感することで身につくところがあります。そういう意味では、DXに向けてITなどを経験し、いい意味で失敗することが必要かもしれません。また、手段ありきではありませんが、世の中の求められるスピード感からすると、6割くらいの成功する可能性があるのであれば、やってみて、そこで課題をだしていくのがよいのではないでしょうか?

中嶋:現場改善、IT改善、どちらも含めて改善を進める素地をつくる、改善のマインドを持ってもらう教育が必要で、例えばそれがハンコを無くすような提案ができるきっかけとなると思うのです。システムを単純化して理解するというのは、「ハンコを持って朱肉でインクを付けて所定の場所に押す」とプロセス定義するのではなく、目的である「承認する」とプロセスを定義するということです。

そうすれば、ECRSの原則に従い、「電子的な承認方法にすれば良い」、「システムで保証できるなら入力データが正しければ承認はいらない」というように、デジタル化に合わせた業務プロセスに改善できるかもしれない。ここまでつなげるのがDXでしょうね。

大井川:ちなみに、IE人財の育成でも身近なところでDXの前に分析手段としてのIT化の準備を少しずつ進めています。人の作業や動線を計測する場面では、世の中に市販されているものを使って今までは人が集めていた情報を、IT技術で切り替えていこう、ということで、身近なIT現場改善の体験講座を検討しています。

こういう教育では、DXやITというものを、身近な言葉で分かり易く簡単に咀嚼(そしゃく)して説明することが大切だと思っています。そして、聞くだけでなく、どんなものなのかを実際に手を動かして体感してもらうこと。

そして、DXやITは、働く人が多様化している日本の現場では、高齢化、多国籍化、素人化など現場の困り事を手助けする手段として期待しています。

中嶋:DXにおいても、難しいことを、咀嚼(そしゃく)してシンプルに理解し、説明するIE的視点は必要ですね。いろいろ言いましたが、たくさんハードルがあって難しいのは十分承知しています(笑)。やはり人財教育は大事ですよね。DXのための思想やリテラシーを持った、ベクトルが同じ人財がそろっている組織を作ることもDXには必要かもしれません。

高田:DXは、ITベンダーの宣伝でバズワード化、はやり言葉化してしまっています。下手をするとツール導入が目的化してしまうので、そうならないように若いメンバにどう意識付けしていけばいいのでしょうか?

大井川:DXの取り組みについていうと、トヨタのからくり改善チームが理想に近いと聞いたことがあります。トヨタでは、DX化をあえて内製し現場のニーズを聞いたら、この内製チームですぐに応えるようにしているそうです。大きなホームラン狙いでなく、現場の声をきいたら、スピード感を持ちすぐに答えてあげるヒットを積み重ねること。これがIEでもDXでも一番大切なフィジカルな人間関係のコミュニケーションだと思っています。そして、いい意味で失敗を早く経験し学んでもらうことが、若い技術者を成長させることになると思います。

高田:人財育成は企業の競争力の源泉といわれていますが、日本は企業が人財育成に投入する費用が少ないという調査結果もあります。製造現場に限らず、およそ人が働く「職場」の生産性を上げ、効率の高い職場を構築するには、まさにその職場で働いている人が、自分の仕事や職場の業務を改善していく必要があります。身の回りのいろいろなところに改善ネタがあるかもしれないという「改善マインド」を持ち、各作業・業務の付加価値を高めていく人財を、職場を舞台に鍛えていかなければならないのだと感じました。



まとめ

いかがでしたでしょうか?

19世紀に生まれた科学的管理法から生産現場改善で使われてきたIEですが、新しい技術をつかうDXプロジェクトにおいても、ムリムダを現場現物で発見し、現場のアイデアで改善していく、という意味では、DXで行われていることと似ています。

また、DXを現場に提案するときには、現場ユーザに抵抗者が現れることも多々あります。また導入する側にも、現場ユーザとの調整をおこなう人財が圧倒的に不足しており、それを育成していく必要があります。

本対談から、DXとIEの関連性を踏まえ、DX理解者を育て、プロジェクトを成功させるポイントは、次の3点といえます。

  • 導入する側にも現場ユーザ側にも、方法が変わっても、目的が変わらないことを受け入れられるような、考え方の下地をつくること
  • 現場ユーザには、難しいDX技術をわかりやすく説明し、小さな成功体験を積み重ねてもらうこと
  • 最終的に、現場ユーザには、身の回りに改善ネタがあるかもしれないという「改善マインド」と、自ら各作業・業務の付加価値を高めていく意識を持ってもらうこと

今回のコラムが、皆さまのDXプロジェクトの参考になれば幸いです。

弊社では、IoTシステムを始めとしたDXプロジェクトのプロジェクトマネジメントや、ITソリューションの企画・検討を行うコンサルティングを行っています。

ご興味のある方は、以下お問い合わせください。




<商標注記>

文中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標である場合があります。






関連するトピック




サービス・ソリューションに関するお問い合わせ

ページトップへ

EBSSトップページ| 個人情報保護方針| サイトのご利用条件| お問い合わせ

イー・ビー・ソリューションズ株式会社